歯科論評

食後の歯磨きは30分後か?食後すぐがいいか?

歯磨きは食後30分経ってからが良いという噂について

水戸市の子供たちに食後の歯磨き習慣をつけてもらう為には、水戸市の学校や医療機関にて統一した指導が必要です。これまで保育所・幼稚園、学校、小児歯科では「昼食後にはなるべく早く歯みがきをしてから遊びましょう」と指導してきています。

ところが最近、テレビの番組で「食後30分は歯磨きするな」という誤った情報が流布されてから、水戸市民や歯科衛生指導の現場で混乱が生じています。そこで、歯磨きは食後30分経ってからという噂について解説したいと思います。

食後の歯みがきの理想的なタイミングとは

結論から言うと、学校で行っている「昼食後にはなるべく早く歯みがきをしましょう」という指導は正しいです。「30分以内に磨いてはいけない」という事はありません。

すみやかに歯磨きした方が良い理由

すみやかな歯磨きを推奨する理由としては、虫歯菌が多量に含まれる歯垢(プラーク)と食後に口の中にある糖質を早めに取り除いた方が良いからです。

お口の中に住んでいる虫歯菌が、食後に口の中に残った糖と出会うと、歯の表面に歯垢(プラーク)を形成します。

そうする前に歯垢(プラーク)と糖質をブラッシングによって除去することで、歯垢(プラーク)中の酸で歯が溶けるのを防ぐためです。

また、虫歯菌と糖質が出合っても即座に歯垢(プラーク)ができるわけではなく、虫歯菌が歯垢(プラーク)を増やすには時間が必要です。
「食後30分は磨かない」のでは、虫歯菌にその時間を与えてしまいます。そういうわけで、食後すみやかに歯を磨く事が大切なのです。

なぜ食後30分間は歯を磨かない方が良い説があるのか?

テレビや雑誌、新聞までもが「食後30分は歯を磨いてはいけない説」を報道しました。

この誤った報道のきっかけは、酸蝕症に関する実験論文です。

実験的に酸性炭酸飲料に歯の象牙質の試験片を 90 秒間浸した後、
口の中にもどしてその後の歯みがき開始時間の違いによる酸の浸透を調べた論文です。

「虫歯」を調べた実験の論文ではありません。「酸蝕症」の実験による見解だったのです。

この実験のように歯を溶かすには「酸性度の高いコーラなどの炭酸ドリンクを90秒もの間、口の中に満たしたまま保持する。」ことが必要です。しかし、一般的な食事ではこのような状況になりませんし、実験にあるような酸蝕症はまず起こりません。

マスコミ各社に記事を提供するライターが「酸蝕症」と「虫歯」を間違えて、注目の記事を書こうとセンセーショナルに騒ぎ立てた結果生まれたのが「食後30分間は歯を磨いてはいけない」という誤った情報なのです。

小児における歯みがきの目的

小児における歯みがきの目的は、歯垢(プラーク)の除去です。

虫歯菌が作った歯垢(プラーク)を取り除くこと、プラークの原料となる糖質を取り除くことです。

結論として、通常の食事の時は早めに歯みがきをして歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことが大切なのです。

インプラントの寿命はどれくらいか?

 

 

患者からのインプラント相談において、よく出る質問は、「インプラントはどれくらい長持ちしますか?」というものです。相談者は「自分の口に入れたインプラントの歯はどれくらい長持ちするのか?」を知りたいのだと思います。ところが、質問された私は答えたくても、返答に困ってしまいます。「その人の健康の未来予想を的中させるのは非常に難しいの事であり、安易に答えるべきではない」と思っているからです。

 

そもそも、歯医者の予想が当たるでしょうか?もちろん、患者の皆さんがこの質問をするお気持ちはわかります。「せっかく治療するのだから一生涯持って欲しい」と願う気持ちから出る疑問なのです。そこで、このページでは「インプラントの寿命について」お話したいと思います。

 

厚生労働省も「国民は知りたがっている」と考えているのでしょう。国の予算を使って答えを探そうとしました。2014年という少し古い研究結果ですが、日本の歯科大学教授陣が「インプラントの寿命」について論文のデータを集めて分析し、集計し、結論を出しました。

 

歯科インプラント治療のQ&A

厚生労働省歯科インプラント治療のためのQ&A

 

その結果、インプラントの寿命の結果を厚生労働省はこのように結論付けました。

 

「いわゆる埋入したインプラントが何年間口腔内で残存・機能するかという問いには(いわゆる寿命)、現在の研究報告を見る限り適切に回答することは困難である。」

 

 

えっ!「そんなことないだろー」笑 って思いますよね。私もそう思います。何かを隠してるの?まだ解明されていないの?

 

この歯切れの悪い回答の出典は、厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラントのためのQAという公文書で、調査した歯科医師も公表されています。この作業班に名を連ねる歯科医師達は立派な役職に就いている方たちばかりです。

 

作業班

 

班 長

広島大学大学院医歯薬保健学研究院

歯周病態学研究室教授 栗原英見

 

班 員

日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座准教授 萩原芳幸

九州歯科大学口腔機能再建学講座

口腔再建リハビリテーション学分野教授 細川隆司

東京歯科大学口腔インプラント学講座教授 矢島安朝

秋田大学医学部病院歯科口腔外科教授 福田雅幸

日本大学松戸歯学部歯周治療学講座教授 小方賴昌

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

生体支持組織学講座歯周病学分野教授 和泉雄一

東京歯科大学臨床検査病理学講座准教授 松坂賢一

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

展開医療科学講座口腔インプラント学分野教授 澤瀬隆

日本歯科大学新潟生命歯学部

歯科補綴学第Ⅱ講座教授 渡邉文彦

広島大学大学院医歯薬保健学研究院

口腔外科学研究室准教授 武知正晃

(敬称省略) 

 

厚生省の作業班が出した結論は、なかなか歯切れの悪いものとなりましたが、次に「インプラントの成功率」について私が、現時点で最も新しい知見をお話させて頂きます。

先ほど、「寿命と成功率は違う」とありましたね。そこで、成功率に関する統計を見てみましょう。日本の厚生労働省にはこのデータはありませんので、スウェーデン政府のデータを使った研究です。

 

スウェーデンでは、インプラント治療は保険治療ですので、いつだれがインプラントをやったのかという記録を社会保険庁が持っています。そのデータを使って10年後の患者を呼び出してその後どうなったのかを調べた研究があります。世界で最も多い数の集計であり信頼できる研究という評価を受けているものです。

 

スウェーデンの研究結果として、10年後に残存していたのは95%のインプラントでした。10年成功率95%です。

 

ちなみに、自動車検査登録情報協会によると20183月末の乗用車の平均車齢は8.6年でした。自動車よりは長持ちですね。

 

さて、おおとも歯科の患者の場合はどうなのか?というとインプラント成功率は97.97%です。

20年以上経過したインプラントを含めた20196月時点の集計結果で、除去されたインプラントがたったの2.03%です。この集計結果はインプラントの長持ちを意味しています。

 

スウェーデンの全国平均は95%の成功率(10年後の集計)と比べて、おおとも歯科のインプラント成功率は96.8%(20231月累計2743本の集計結果)ですので、おおとも歯科は世界平均よりも良い数字が出ています。基本をしっかり守り、科学的根拠は大切だと考えている結果が出ていると思っています。一例を挙げますと、インプラントの寿命は、埋入部位による差があるのですが、最近の研究結果ですが「インプラント修復後に隣り合ったインプラント同士の距離の離開は5年で17%、8年で29%に起こっており、これは下顎臼歯部に多い」ことが発表されました。20年以上の経験のある当医院ではこの事実に気が付いており、補綴設計における対策を取り、それを見越した患者説明を行なっていることも高い成功率の理由にの一つに挙げられます。

 

【豆知識】

このページでは、「寿命」と「成功率」は少しニュアンスが違うという話をしました。このことが、患者から「インプラントの寿命はどれくらいですか?」と聞かれた真面目な歯科医が困ってしまう理由となります。「回答は困難です。」という本当のことを答えてしまうのはあまりにも、患者に対して不親切だという気も気持ちになるからです。もしかしたら、「インプラントの成功率はどれくらいですか?」と聞いてくれれば、当医院のように治療結果を集計している歯科医院や最新の論文の内容を覚えている歯科医師なら即座に数字で答えが返って来るかも知れません。

「インプラントは一生もの」とは思いこまずに大切に管理していって下さいね。