歯周病治療

歯周病とは?

歯周病とは、歯周病菌が歯と歯肉の境目に入り、炎症を起こす病気です。痛みはほとんどの場合ないですが、歯肉からの出血や腫れ、排膿などが見られ、悪化すると歯周ポケットが深くなり、歯を支える歯槽骨が溶けて、歯がグラつくようになります。最終的には歯が抜けてしまうこともあります。

痛みもないまま骨が溶けるなんて恐ろしい病気ですが、さらに最近では、歯周病菌が血管に入ることで炎症を引き起こし、その結果、脳卒中・心筋梗塞、早産などのリスクを高めることも分かっていますので、歯だけではなく身体全体に悪影響を及ぼす怖い病気という事です。成人の約8割が感染していると言われていて60代では9割以上、20代でも7割以上の人が歯周病の疑いがあると言われています。

あなたは、『年をとったら歯が抜けるのが当たり前』だと考えているかもしれませんが、実は、歯が抜ける原因の50%が歯周病だと言われています。つまり、歯周病を防ぐことができれば、あるいは歯周病になってしまっても、きちんと治すことができれば、一生自分の歯で過ごすことも可能なのです。

あなたの口腔内は大丈夫?

痛みもないまま進行していく恐ろしい病気ですが、そんな歯周病も注意してみると小さなサインに気付く事が出来ます。どんな症状が現れるのか、下の項目でチェックしてみましょう!

あなたの口腔内環境をチェック!

  • 口臭が気になる
  • 歯みがきで歯ぐきから出血する
  • かたい食べ物を噛むと歯に響く
  • 歯肉が赤く腫れている
  • 歯がぐらつく
  • 歯の間に食べ物が詰まる
  • 朝起きたときに口の中がネバつく
  • 歯が浮いているような感じがする

歯槽膿漏と歯周病って違うの?

歯槽膿漏(しそうのうろう)は、歯周病の症状の1つです。
膿漏とは、「膿が体表面に流れ出るような状態」のことです。膿の出ない歯周病もありますので歯槽膿漏=歯周病ではありません。

歯周病は、進行度合いによって、二つに分られています。「歯肉炎」と「歯周炎」です。細菌によって引き起こされる歯や歯茎の病気であるの総称です。歯周病であっても膿が出たり、膿が止まったりしますので、現在では一症状である歯槽膿漏という言葉は使われなくなっています。歯周病という病名で統一されています。

歯周病の罹患率

歯周病になることは珍しい事ではありません。
厚生労働省は平成26年(2014年)患者調査で「歯肉炎及び歯周疾患数は約3百32万人(3315千人)」と発表しました。

主な傷病の総患者数

(平成26年の日本の人口:1憶3百53万9千人)

日本人の場合、歯肉炎は10~20代前半ですでに60%の方が患っていると言われ、50才代で約80%の方が患っていると言われる程、多くの方が悩んでいる歯の病気です。誰もが患っている病気だからといって軽視していると最後には取り返しのつかないことになってしまう怖い病気です。
歯周病は予防できます。また、早期発見、早期治療が最も大切なキーポイントとなりますから、歯が痛くなくても、半年に1回は診察したほうがいいでしょう。(健康な歯と歯茎であれば、定期検診は痛くもなんともない、むしろリラックスできる癒しの場となるはずです。)

歯周病の原因は?

歯周病の原因は、お口の中にいる細菌です。中でも、歯周病菌が歯周病と大きく関係している細菌です。むし歯菌も歯周病菌も、歯垢(プラーク)と呼ばれるネバネバした細菌のかたまりの中にすんでいます。

さらにネバネバした歯垢が石灰化して硬くなると、歯石とになります。この歯石の表面はザラザラしているので、そこにも歯垢がつきやすくなります。歯垢の段階なら歯ブラシでこすれば取れるのですが、歯石になってしまうと歯ブラシでは中々取れませんので、歯医者さんで専門の器具を用いて除去する必要があります。

たった3日程度で歯垢は石灰化して歯石になり始めるのです。
どんなにしっかり歯ブラシをしていても磨きづらい所に磨き残しが停滞し石灰化してやがてブラシでは取れない汚れに変化していくのです。

清掃不良(ブラッシング不足)によって歯周病が進行してしまう事はご存知の方も多いかと思いますが、その他にも多くの原因がある事をご存知ですか?その中からいくつかご紹介していきます。

喫煙習慣 タバコを吸うと、血管が収縮して血流が悪くなるので、歯周病が進みやすくなります。
糖尿病 体の抵抗力が低下するため、歯周病も悪化することがあります。
女性ホルモンの変化 思春期や妊娠した時、あるいは更年期など、女性ホルモンが急激に変化する時に、ホルモンの影響で歯周病になりやすくなります。
ストレス ストレスによる歯ぎしりや、ストレスによる体の抵抗力の低下などにより、歯周病になりやすくなります。
口呼吸 口呼吸の弊害はいろいろなところで挙げられている様ですが、口の中が乾燥する為、歯周病にもなりやすくなります。
歯並びの悪さ 歯磨きをしても、毛先が行き届かないところにだけ歯垢が付いたままになってしまう事があります。
食生活の乱れ 柔らかいものや甘いものばかり食べて居たり、ダラダラと飲食し続けていると、歯垢ができやすくなります。また、栄養が偏ると、体の抵抗力が低下して歯周病になりやすくなります。

こうしてみると、自分で気をつけられそうな項目が沢山ありますね。歯周病は細菌感染であり、生活習慣病です。健康に悪い生活習慣を続けた結果、末期の歯周病となるケースは珍しくありません。歯だけでなく全身の健康を守る為にも、自分自身の食生活や嗜好、癖などを見直していきしましょう!私どもは、患者の健康を守るうえで気付いたことがあれば、その都度指摘させて頂きます。より健康な状態を目指すために必要です。ご了承ください。

歯周病の予防方法は?

「歯周病にならない為」に、あるいは「歯周病をこれ以上進行させない為」に、何をしたらいいのでしょうか?

先ほど書きました様に、歯周病の原因は歯垢の中にいる細菌です。細菌が減れば歯周病になる可能性も低くなります。細菌を減らすには、歯垢を取り除くことが大切です。歯垢がなくなれば、歯周病だけではなく、むし歯になる可能性もグッと低くなります。(一石二鳥ですね)歯垢を取り除く方法、それは正しい歯磨きをする事です。
「え。毎日歯磨きしてますけど…。」
とおっしゃる方も多いと思いますが、それでもむし歯や歯周病が減らないのはなぜだと思いますか?

それは、きちんと(正しく)歯を磨けていないからに他なりません。
歯をちゃんと磨こうと思うと、意外と神経を使います。 慣れの問題だと思いますが、鏡を見てじっくりゆっくり磨きながら、正しい歯みがきを体感してください。磨きあがった後の口の中は、清潔感いっぱいで本当に気持ち良いです。当院でもブラッシング指導をしていますので、ぜひ受けてみてください。
また、生活習慣を改善することも大切です。
先に書いた歯周病の原因となるものを1つずつ取り除いていってみてください。
細菌が原因だと分かっているのですから、その細菌(のかたまりである歯垢)を取り除く事、そして、自分の体そのものを健康に保って、細菌に負けない状態にする事が大切です。
歯周病をきっかけに、あなた自身の生活や健康をぜひ見直してみてくださいね。

治療法はありますか?

今患ってしまっている歯周病は、正しい歯磨きや生活改善でその進行を止めたり遅らせる事は出来ても、根本的には治癒しません。ひどい歯周病になってしまったら、歯医者さんで治療してもらう必要があります。当院では、歯周病の患者さまには以下のような治療を行ないます。

応急処置

応急処置が必要な場合には行ないます。歯肉が腫れている場合には、腫れている部分を切って膿を出す事があります。

ブラッシング指導(プラークコントロール)

的確に歯垢を取り除く為の、正しい歯磨きの仕方をお教えします。(ブラッシング指導と呼びます。)新しい歯ブラシをお渡ししますので、歯科衛生士と並んで一緒に歯磨きをします。

歯の汚れの色は歯の色と似ている為、磨けているのか、いないのか、分かりづらいと思いますので、当院では上の写真のように染色液(歯の汚れにのみ色の付く液)を用います。これを使用する事で「普段自分でどこが磨けていないのか」が一目瞭然です!

歯石除去(スケーリング)

歯垢が石灰化してかたまってしまった歯石は、プロが取り除くのが、一番安全で確実です。むし歯や歯周病の温床となってしまうので、歯石があったらすみやかに取り除きましょう。

上の症例写真は、歯石除去を行う前と後で撮影したものです。
歯石は歯と似た色をしている為、分かりづらいかと思いますが、実際に除去した後の写真と比較するとわかりやすいですね。

この歯間に開いた隙間は歯周病菌によって歯を支える為の骨や歯肉が退縮してしまった事によって引き起こされたもので決して歯を削ったりはしていないのです。

スケーリング・ルートプレーニング(SRP)

目に見えない部分(歯ぐきと歯の境目=歯周ポケットの奥)に歯石がある場合は、ときに局所麻酔をして歯石を除去します。歯垢や歯石によって汚くなった病気のセメント質も除去して、ツルツル・ピカピカに仕上げます。

歯周病学会誌に投稿した歯科衛生士の文献「SRPの実際」に分かりやすく書かれています。

歯周外科手術

歯石を除去したりしても歯周病が治りきらない場合は、歯周外科手術をします。歯肉を切って歯槽骨からはがし、こびりついて取れなかった歯石を除去してツルツル・ピカピカにします。

メンテナンス

歯周病は、歯医者さんでの治療が終わってからが大事です。せっかく取り戻した健康を維持しましょう。毎日の正しい歯磨きと規則正しい生活、定期検診が必要です。

こうして見ると、症状が軽いうちは時間もお金もかけずに治す事が出来ますが、症状が重くなると時間もお金も大分かかってしまいます。時間もお金も大切ですが、他ならないあなた自身の大切な体の事ですから、自分で出来るお手入れは毎日自分でやって、数ヶ月に一度の定期検診でチェックしましょう!

歯周外科手術とは?

従来の歯周病の治療方法では、ブラッシング指導や歯石の除去(スケーリング)、必要があれば歯周外科手術を行ないます。

主に保険診療で受けられる歯周外科手術は、歯周ポケットを切り取り、歯根を露出させる事で歯周ポケットを浅くし、歯周病菌の住みかを少なくしようというものです。これにより、歯周ポケットの歯磨きは容易になり、炎症も治まりますが、歯の根が見えてしまって醜くなる。知覚過敏になって凍みるようになるという欠点がありました。

理想的な歯周病の外科手術とは?

歯周病の進行度合いによっては自費治療の外科手術により治る場合があります。その代表的な治療法がエムドゲイン療法です。

エムドゲイン治療ともいいますが、要するにエムドゲインと呼ばれる薬を歯周病によって破壊された歯周組織に外科的に塗布する方法です。従来の方法は失った骨の位置に歯肉を切り取っていくのですが、エムドゲイン療法は、歯肉の位置に骨などを作り出すと考えれば分かりやすいと思います。最近では、再生療法の研究が進んでおり、その先駆けとして「リグロス」という薬品が日本で認可されました。保険適用となるこの薬品は現在歯科業界で注目されています!

エムドゲイン療法とは?

エムドゲインは、スウェーデンのビオラ社で開発された新しい歯周組織再生誘導材料です。その主成分は、子供の頃、歯が生えてくる時に重要な働きをするタンパク質の一種です。歯周外科手術の際に、エムドゲインを塗布する事により、歯の発生過程に似た環境を再現します。こうして、初めて歯が生えた時と同じ様な強固な付着機能をもつ歯周組織の再生を可能にしました。

歯周病で歯を支える骨が溶けています。エムドゲインで治療するとどうなるのでしょうか?

←図の枠の部分を拡大し、説明します。

  1. 不溶性のマトリックスを形成します。
  2. セメント質と歯根膜が再生します。
  3. そこから、新生骨が形成されます。
  4. 欠損部は骨で満たされます。

歯周組織再生治療(エムドゲイン療法)は、このように歯周病を治します。

リグロスとは?

歯を支えている顎骨の一部である歯槽骨を再生するという歯周病治療薬で最近日本でも認可され保険適用となった薬品です!今まで、困難であった「歯周病によって失った骨や歯肉は回復治療」ですが、この薬品には再製を促す効果があり、今後の活躍が大きく期待されています。

開発に関わった大学教授の論文によると、被験者1,000人に試したところ、失った歯槽骨の平均4~5割が回復したという結果が出ています。中には、ほぼ10割回復した方もいるといいます。そして今のところ大きな副作用は確認されていません。まさに歯周病治療薬としては、画期的な治療薬とです。処置内容や流れとしては、エムドゲイン治療と殆ど一緒です。

高価な薬を使うことなどから、決して安い治療費でははありませんが、開発にかかった時間と研究費があってこそ、自分の顎骨が再生してくれるという事を思えば、むしろ安いとも言えます。
悪くなったら治療が必要になるので、まずは歯周病を進行させない事が何よりも大事です!やはり日頃からのブラッシングによるケアが一番重要ですので歯ブラシ+歯間ブラシやフロス、洗口液を駆使して意識的に口腔内を清潔に保つ事を目指しましょう。

リグロスで絶対に治りますか?

いいえ、医療の結果に絶対はありません。リグロスの臨床研究では、治療後10ヶ月後の結果で8割の患者に明らかな歯周病の改善がありました。逆にいえば、2割は効果がなかったのです。医療は魔法ではありません、過度な期待はしないようにして下さい。治療を受けた結果、良い結果が出なくても、医療機関に過失はありませんのでご了承下さい。

[いわゆる手遅れになった歯周病」これを治せる魔法の薬ではありません。膿が出ていて、ぐらついて骨にもついていない、舌で触っただけで動く歯を抜かずに治す方法はありません。そのような末期の歯周病の治療法は抜歯となります。

歯周病に起因する病気

歯周病は全身を不健康にしてしまう病気です

歯周病になると歯肉は腫れ出血します。この穴の開いた血管からは血が出るだけでなく、なんとここから歯周病菌が体内に入っていることを知っていますか?歯周病菌が作り出す毒素も血液中に入っていき、全身を回ります。

  1. 歯周病菌はあなたの血管中に容易に侵入します。
  2. 血液中の歯周病菌は血管内面にくっつき、プラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができることがあります。
  3. 血液中の歯周病菌が免疫に攻撃されて死んだあとでも、毒素は残り悪さをします。

さて、この悪玉はどんな悪さをするのでしょうか?

歯周病が全身疾患を増悪させることは科学で証明されました

科学的に歯周病と全身の病気に関連がある事が証明された病気は以下の通りです。

歯周病と密接な関係にある病気についてご説明します

糖尿病

歯周病と糖尿病は密接な関係があります。糖尿病患者は歯周病が進行してしまいますが、歯周病も糖尿病を悪化させることが分かってきました。歯周病菌は歯肉から血管内に入り、血管を通って全身を回ります。血管内の歯周病菌は体の中で死滅しますが、歯周病菌の死骸にある内毒素が残ります。内毒素はTNF-αの産生をして、血糖値に悪影響を及ぼします。

歯周病糖尿病歯の密接な関連性

この連鎖を断ち切るには、歯周病を治すしかありません。では、歯周病の治療をすれば糖尿病は良くなるのかというと、
「歯周病治療によって糖尿病気が改善したという文献があるものの、メタ解析においては統計学的有意差をもって改善することが認められていない。(大阪大学 大学院歯学研究科 村上伸也教授)」ということです。

つまり、歯周病は糖尿病を悪化させるものの、歯周病を治したからといって、糖尿病が改善する理由にはならないのです。最初に歯周病にしないことが大切ですね。

狭心症・心筋梗塞

血管が狭くなったり、塞がったりして心臓の筋肉の血流が途絶え、死ぬこともある病気です。今までは生活習慣が主な要因と言われていましたが、最近、歯周病との関連が深いことが分かりました。歯周病菌が歯肉から血管内に入り、血管内面にプラーク(脂肪性沈着物)となってへばり付きます。これで血液の通り道は細くなってしまいます。さらには、このプラークが剥がれて血の塊ができ血管を流れることがあり、血管の細いところで詰まることがあり、こうして危険な全身疾患となるのです。

脳梗塞

脳の血管のプラークが詰まったり、心臓や頸動脈からのプラークや血の塊が流れて来て脳血管を詰まらせる病気です。歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になりやすいことが知られています。歯科医院はで命を守る歯周病治療をすることは大切ですね。

低体重児早産

妊婦が歯周病になっている場合は早産や低体重児出産のリスクが高まることが知られています。1996年アメリカ歯周病学会(AAP)の学会誌に掲載された「歯周病感染は早産低体重の可能性がたかまる危険因子である」という論文からこの事実が知られるようになりました。

Steven Offenbacher, Vern Katz,Gregory Fertik, John Collins, Doryck Boyd, Gayle Maynor, Rosemary McKaig, and James Beck.
Periodontal Infection as a Possible Risk Factor for Preterm Low Birth Weight.
Journal of Periodontology.October 1996, Vol. 67, No. 10s, Pages 1103-1113

2003年のコロンビア大学の研究で、「マウスの血管内の歯周病菌は、最初に胎盤の血管で検出された。細菌は内皮を通過し、増殖し羊水に広がった。」ことを確認して、歯周感染によって引き起こされる菌血症は、口腔から子宮への細菌が移動することを示しました。

Yiping W. Han,Raymond W. Redline, Mei Li, Lihong Yin, Gale B. Hill and Thomas S. McCormick.
Fusobacterium nucleatum Induces Premature and Term Stillbirths in Pregnant Mice: Implication of Oral Bacteria in Preterm Birth. Infect Immun, 72:2272-2279,2004.

妊娠している女性が歯周病にかかっている場合、早産や低体重児出産になる可能性は7倍になるのです。これは喫煙や飲酒、高齢出産などよりも高いリスクです。

骨粗鬆症

歯周病の患部で産生されるサイトカインには、骨代謝に影響を及ぼしますので、全身の骨密度を減らすという研究結果があります。逆に、骨粗しょう症の人が歯周病になった場合には、歯槽骨が溶けるのが早いことが知られています。

慢性腎不全

人工透析処置を受けている慢性腎不全患者の歯周病罹患度は健常人より高く, 慢性腎不全が歯周病のリスクファクターになる可能性があります。

また 人工透析処置を受けている糖尿病性腎症患者はそれ以外の疾患由来の患者よりも重度の歯周病を有する傾向が分かっています。

人工透析患者の歯周病罹患度に関する疫学的研究
大場 堂信, 赤沢 佳代子, 二宮 洋介, 桐野 晃教, 明丸 倫子, 石本 智子, 戸野 早由利, 中村 輝夫, 片岡 正俊, 篠原 啓之, 木戸 淳一, 永田 俊彦
日本歯周病学会会誌:42 巻 (2000) 4 号 p. 307-313

関節リウマチ

2015年に京都大学の橋本求 医学部附属病院リウマチセンター特定助教と別所和久 医学部附属病院教授を中心とする共同研究グループは「歯周病は関節リウマチの発症に影響を与える」という研究成果をイギリスの文誌「Journal of Autoimmunity」と「PLOS ONE」の電子版で発表しました。

誤嚥性肺炎

気管に入った唾液中の細菌などが肺に感染して起こる肺炎が「誤嚥性肺炎」です。誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌です。外から菌が入ってくることの方が少ないです。つまり、誤嚥性肺炎の予防には歯周病のコントロールが重要になりますね。

アルツハイマー病

最近の研究では、歯があってもそれが歯周病であれば、アルツハイマーになる可能性が増えることが分かりました。

Kondo K, Niino M, Shido K. A case-control study of Alzheimer’s disease inJapan-significance of life-styles. Dementia 1994; 5: 314—326.
重富俊雄,浅野辰則,加藤武司,宇佐美雄司,上田実,河野和彦.口腔機能と老化に関する研究;痴呆の危険要因に関する疫学的検討.口腔科学会雑誌 1998;47:403—407.

アルツハイマー病ではミロドという蛋白質が脳内に蓄積され、二十数年を経て認知症発するのですが、この研究により、歯周病の炎症は脳内へも波及し、アルツハイマー病の原因分子の脳内レベルが上昇し、認知症(記憶学習能力低下)を増悪させることを証明されました。

名古屋市立大学大学院医学研究科道川誠教授, 国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部松下健二部長ら.の「マウスモデルにおいて歯周病菌の感染によって惹起した歯周病はアルツハイマー病の病態を増悪させる」という論文で、イギリスの科学雑誌電子版に掲載されました。

Naoyuki Ishida, Yuichi Ishihara, Kazuto Ishida, Hiroyuki Tada, Yoshiko Funaki-Kato, Makoto Hagiwara,Taslima Ferdous, Mohammad Abdullah, Akio Mitani, Makoto Michikawa, Kenji Matsushita. Periodontitis induced by bacterial infection exacerbates features of Alzheimer’s disease in transgenic mice. npj Aging and Mechanisms of Disease.;6,11,2017.

ご存知のギネスブック、2001年Guinness World Recordsに「全世界で最も蔓延している病気は歯周病であり、この病気に冒されていない人はわずかしかいない。」と掲載されました。大げさな感じもしますが、実際に日本における歯周病の有病率は80%と非常に高いですし、後進国では歯周病治療をせずに抜歯してしまう事を考えると、あながち間違っていないですね。

あなたを脅かす歯周病から、自身を守ることが生活の質や生命に直結するのですから、これをおろそかにしてはいけません。あなたの命や快適な生活を守る行動の一つが歯周病予防であり、歯周病の治療なのです。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
この情報を知ったあなたは、これからどうしますか?

私たちは、歯周病の予防、進行抑制、治療に至るまで真剣に取り組んでいます。
あなたの歯のまわりの骨が溶けてもすぐにはあきらめないで下さい。
おおとも歯科では「歯周組織再生剤」を利用した歯周外科手術に対応しております。
しかし、重要なのはあなたの行動です。まずは相談に来るという「行動」を起こして下さい。
現在の歯周病の治療は本当に進歩しています。私どもは、きっとあなたの力になれると思います。

おおとも歯科 歯科衛生士一同

重度の歯周病の歯を抜くことも歯周病治療です

歯周病治療には段階があります。歯周病の重症度は、軽度な順にP1,P2,P3,P4の4段階に分けられます。軽度、中等度はしっかりした治療を行なえば、改善することでしょう。しかし、重症な歯周病は抜歯となります。

抜歯により、今まで話してきた全身病へのリスクは無くなるわけですが、今度は「歯が無くなる」という害が出てきます。歯が無くなったまま放置する事も、あなたの人生にマイナスになるかも知れないという話をしなければなりません。そのあとで、口腔内管理の重要にも触れます。

歯があなたの命を支えていた

歯が無いと脳の脳機能が低下する事は、良く知られています。国の研究機関である東北大学大学院研究科によると、歯が少ない人ほど脳の海馬や前頭葉が委縮しているとの事です。アルツハイマーとの関連が疑われるので、国から多額の予算が投入されているほどです。

歯が無いと脳が委縮するどころか、歯が無いまま放置しておくと、近いうちに死んでしまうかも知れません。

厚生労働省医療審議官の資料の抜粋です。

歯を失った人の運命!

80歳で20本以上歯がある人では9割が自立であったが、歯が10本未満で義歯なしの人は6割が寝たきりとなっている。
また、同じ集団の追跡調査では、80歳時に20本以上の歯があった人は、3年後に入院または死亡している割合が5%であったが、歯が10本未満で義歯なしの人は約半数が3年後に入院または死亡していた。

生命維持の根幹を揺るがすのは噛めなくなることで脳血流が減少するからです。

逆に会話や歩行さえもできなくなった寝たきりの無表情の高齢者が、流動食を止め、代わりに入れ歯を使わせるとしばらくして会話や歩行機能が回復し表情を取り戻すことがあります。頭部MRIおよび脳血流SPECT(スペクト)検査で脳をみると、脳血流の変化が明らかです。健康で噛める歯、噛める入れ歯は命や生活の質に直結するのです。

生活の質という意味では、歯があるだけではいけません。健康な歯でないといけません。

歯が無い人への対処ですが、先進国における世界標準治療としては、骨支持タイプの歯科インプラント治療が第一選択となります。

口腔衛生状態が直接生命を脅かす

厚生労働省による国民調査で、2015年の日本の死因のトップ3位に入る「肺炎」ですが、これは口腔内衛生状態と深いかかわりがあります。

死因別死亡者数の割合 厚生労働省2015年 改変

死因別死亡者数の割合 厚生労働省2015年 改変

若い人の死因にはなりにくい肺炎ですが、比較的抵抗力の弱い高齢者の多くが肺炎で死亡しています。

肺炎で亡くなった人の97%は高齢者

肺炎で亡くなった人の97%は高齢者

総務省統計局 平成28年 人口動態調査より

肺炎は感染症です。原因となる細菌がいるわけですが、その菌がどこから来るのかというと、肺炎球菌やインフルエンザ菌のように外部から侵入する菌よりも、口腔内細菌が原因となる場合が多いのです。肺炎の中でもVAP(Ventilator Associated Pneumonia)といわれる人工呼吸器関連肺炎の原因菌を調べた調査によると、なんと76%が口腔内細菌でした。

厚生労働省は、平成29年7月12日「第5回 歯科医師の資質向上等に関する検討会」(笑)の中で、「口腔ケアが誤嚥性肺炎の発症予防につながるなど、口腔と全身との関係について広く指摘されていることから、入院患者等に対して、医科歯科連携を更に推進する」と言っています。

口腔内がきれいなら肺炎は減るのでしょうか?

はい、肺炎で亡くなるリスクが減ります。口がきれいな人と不潔な人では命の長さが変わるというデータは有名です。この事実は多くの医師や歯科医師の他、厚生労働省も把握しています。
「患者の口腔内衛生管理をしたら、肺炎予防ができた根拠」となる論文があります。
政府主導の事業で広島大学歯学部、東北大学医学部、徳島大学歯学部、昭和大学歯学部の共同研究の成果です。

2年間調査をして、調査を始めた当時は差が出なかったが、だんだん差が出てきた。口腔ケアをした人の方が、発熱も肺炎ならびに死亡者が少なかった。特に歯のある人は、ケアをした人としなかった人の差が大きかったという結論です。
考察やまとめのところに口臭予防にも有効で、対人的な生活の質を高めることができ、口腔ケアを始めてから老人たちの表情が目に見えて明るくなったことも記されています。読むべき論文です。このあと、全国的に介護の現場で口腔内清掃の重要性が認識されるようになりました。

要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究.
米山武義,吉田光由,佐々木英忠,橋本賢二,三宅洋一郎,向井美恵.
A Study of the Effects of Oral Health Care on the Prevention of Aspiration Pneumonia in the Compromised Elderly Patients. 日本歯科医学会誌 = Journal of the Japanese Association for Dental Science : JJDS 20, 58-68, 2001-03-31.

口腔内の状況が生活の質や命に直結するのが分かりますね。これは老人だけの話ではありません。私たちおおとも歯科のスタッフは、口腔内環境がきれいになるに従って、患者の表情が豊かになっていくのをたくさん見ています。年齢に制限はありません。

さて、現在において分かっている歯周病の科学についてお話ししてきました。この難しいページをここまで読んでくれた方!偉いです(笑)。お疲れ様でした。
しかし、大切なのはデータや一般論でなくて、今のあなたの口腔内が、どのような状況になっているのかですよね。どうか怖がらないで下さい。

歯周病は比較的予防医学が発達している病気です。
もしも、歯周病が進行したとしても歯周外科手術を受けられます。
そして、もし歯を失ったとしてもデンタルインプラント治療があります。

ここまで記事を読んで下さった方は、どうか読んで終らずに、是非行動して下さい。予約のお電話お待ちしております。

お気軽にご相談ください!